魔女の食卓〜第3話

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「月ちゃん…それで、例の彼とはどうなの?」

月子は焦って、

「え?彼!?え、あ…彼って」

と、頭をフル回転する。

わたし、あかりさんに何話したっけ?だめだ、思い出せない。

「そのう…わたし、前に何か話しましたっけ?」

と言うと、あかりさんは、

「あ、ごめんごめん、いやね、月ちゃんみたく素敵な子だったら、そろそろそういう人がいるだろうなぁと思ってね」と言って、
いたずらっぽくふふっ笑った。

「なんだぁー!びっくりしました。今はほんと仕事ばっかりで、全然そんな余裕なくて…」と苦笑いしつつ、内心ちょっとどきっとしていた。

今、気になっているひとがいるのが、
あかりさんに伝わったんじゃないかと思ったのだ。

って、まさか、そんなわけないか。

「それに、わたしなんか本当にモテないですからー。」と月子が言うと、

あかりさんは、また急に真面目な顔になって、
箸を置くと、からだをこちらに乗り出すようにして月子の目を見て、

「月ちゃんそれ、ほんとに?」と言った。

「やだなーそうですよー当たり前じゃないですか。」と笑いながら言うと、

「違う違う!月ちゃん、わたしなんかモテないって本当に思ってるの?」とあかりさん。

「えぇ…はい、ほんとモテないんです。モテないというか…なぜかいつもうまくいかないんですよね。恋愛している時の方がつらいことが多いくらいで。」

普段、友達にも言わないようなことも、なぜか話してしまう。
そう、気づいたらいつも苦しい。

そうなのね、とあかりさんは相槌を打つと、
「月ちゃん、今、自分のこと好き?」と言った。

好き、と言いたい。だけど…
「あんまり好きじゃないかもしれません。」
と浮かんできた気持ちをそのまま言った。

「そっか、じゃあ話は早いや。」とあかりさんはつぶやくように言うと、

「月ちゃんあのね、ちょっと話は変わるけど、仕事でさ、つらいなーって思うこと、ない?」

急に仕事の話になったので、なんだろう?と思いながらも、月子は
「あります。」と答えた。

「最近だと何かあった?」
「えーと…」と思い出し始めると、いろいろあるな。

でも、これが一番堪えたかな、と思い、
「この間、お客さんに怒られちゃって。」と言った。

「え、どうしたの?」

「相田さんに、最近新規アポイントが取れたお客さん向けの企画の作成をお願いしてて。
もともとアポイント取れた時点で、僕がやるよって言ってくれてたので。
でも、この日までに作るよ、って言ってくれた日までの間、途中で進捗確認したんですが、大丈夫大丈夫って言って見せてくれなかったんです。
でも、完成予定の日の前日になっても全然音沙汰なかったので、相田さんのところに行ったら…」

「企画、つくってなかったんでしょ?」と、間髪入れずにあかりさんが言った。

「え!!あかりさん、どうしてわかるんですか?」

「うん、わたしも相田さん関連で同じことあったから…もう、まだそんなことしてるんだ。」と眉間にしわを寄せた。

「新しい依頼が入っちゃって、そっちやってたら、すっかり…ってことだったんですけど。
結果的には途中で、もう作ってる、って嘘ついてたみたいです…
なので、お客さんに謝って、期限遅らせてもらうように頼んだんですけど、お客さん怒っちゃって。
謝罪にもお伺いしたんですけど、結局、もうアポをとらせてもらえなくなってしまいました。」

「そりゃそうだよね。それで、月ちゃんはどうしたの?」

「え、どうしたって…結局わたしがうまく調整できなかったのがダメだったんです。
社内調整というか、ちゃんと社内のひとに仕事してもらうのも営業の仕事ですもんね。
相田さんも、受注できる確率の低いお客さんだったから、優先順位低かったんだろうな、って。それに…」

言葉を詰まらせるわたしに、
「それに?」とあかりさんが優しく促す。

「それに、わたし、たぶん営業のセンスないんです。同期のえりか、あ、前田さんとかと比べて全然数字取れないし。
この間の目標管理面談でも、部長から、一度くらい必死にやってみたらどうだ?って言われて。」

「それ聞いて、月ちゃんはどう思ったの?」

あ、ダメだ…泣きそう。

みっともない。人前でなんて泣くもんじゃない。
でも、我慢しなくてはと思えば思うほど喉の奥から熱いものがこみ上げてきた。
「…こんなに必死にやってるのに、って思いました。」
と言った瞬間、こらえきれずに涙が出てきた。

「そっか。」
あかりさんはゆっくりとした口調でそう言うと、優しそうに微笑んだ。

気づけば、あかりさんの目元にも涙が浮かんでいる。

驚いて、涙をぬぐうあかりさんを見ると、

「あ、ごめんなさい、月ちゃんの話聞いてたら、なんだか色々思い出しちゃってね。」と言った。

意外だった。
あかりさんは、そりゃあもうめちゃくちゃ仕事ができて、上司だけじゃなく、
職場のみんなから一目置かれていて、お客さんからも好かれていた。
とにかく月子とはまったく別世界のひと、だと思っていたからだ。

「月ちゃんは今、とってもがんばってるのね。」とあかりさんがゆっくりと言ったので、

月子は反射的に、
「いえ、わたしの……がんばりが、足りないんです。」と言った。

「がんばり…か。じゃあさ、月ちゃんは、そもそもどうしてがんばるのか、って考えたことある?」

「えっ?」月子は、一瞬固まった。
どうしてがんばるのか?なんて、考えたこともなかったからだ。

勉強も仕事もがんばるもの。
一生懸命、真面目にがんばることでしか、報われない、
しあわせにはなれないものだと思って生きてきたから。

みんな、そういうものなんじゃないだろうか?

「なんというか……うまく言えないんですけど、がんばることが、あたりまえすぎて。」

あかりさんは、そうよね、とつぶやくと、ひとつひとつ思い出すようにして話し始めた。

「わたしね、前はとにかくがんばることでしか、
しあわせになれないと思ってたから、
いつもいつも必死で、がんばってたの。仕事も恋愛もいつもがんばってた。

何かうまくいかないこととか嫌なことがあったら、
わたしのがんばりが足りないからだ、もっとがんばらなくちゃ、って思って、自分を奮い立たせてた。でもね…」

と言って、あかりさんは窓の方に目線を向けた。

つづく

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