魔女の食卓〜第6話「ゴクラクお味噌汁」

なんだか不思議な1日だったなぁ・・・

月子は帰宅して、コートを脱ぎながら思った。

そして、あかりさんの話を思い出しながら、冷蔵庫を覗いた。

「お味噌、お味噌・・・あぁ、やっぱり賞味期限切れてる!」とひとりごとを言った。

プロローグはこちら
第1話はこちら
第2話はこちら
第3話はこちら
第4話はこちら
第5話はこちら

あかりさんに言われた通り、お味噌のコーナーで「裏側」を見る。

あかりさんは、

「まずは、お味噌汁ね。ゴクラクお味噌汁の作り方を教えてあげる!

お味噌はね、お味噌の裏面を見て、
大豆、米または麦、塩だけのお味噌を選ぶのよ。」

と言っていた。

ゴクラクってなんだろう?と思いつつも、
忘れちゃうからと、月子はメモをしておいた。

「お味噌の発酵を止めるアルコールが入っているものもあるけど、
お味噌が発酵しないように麹菌の働きを押さえちゃうものなの。

わたしは、毎年家でお味噌を作っているけど、それがびっくりするほど美味しいの。

だから、月ちゃんが買うときも、アルコールとか酒精って書いていないものを選んでね。

あとは、だし入りのお味噌は、うま味調味料が入っているの。
ちゃんと作られている美味しいお味噌には、うま味調味料は入れる必要がないからね。

「調味料(アミノ酸等)」って書いていない方がおすすめ」

どれどれ、とお味噌のパッケージの裏側を見てみると、

月子が持っているお味噌には、賞味期限が切れている上に、酒精とアミノ酸が入っていた。

そう、「裏側」には「原材料」つまりは「その商品が何からできているか、何が入っているか」が書いてあるのだ。

明日は日曜日だし、スーパー行ってこよう。
月子は、なぜかちょっとだけわくわくしていた。

翌朝、あかりさんにお土産でもらったおむすびを食べ終えると、
月子は身支度をしてスーパーに出かけた。

次々と「裏側」を見ていく。
こんな買い物の仕方は、初めてだ。

ひとつずつ見ていくと、
確かに、いろいろ入っているお味噌と、そうでないお味噌がある。

高級そうなパッケージとは裏腹に、酒精であったり、その他の添加物が入っているお味噌も多い。

これまでだったら、絶対選ばなそうなお味噌も、
裏面を見たら、なぜかとてもおいしそうに見えて、それを選んだ。

(値段とパッケージだけじゃ、中身ってわからないんだなぁ…)

あかりさんのお味噌汁は、本当においしいけれど、わたしが作るお味噌汁との違いは、
味噌そのものの違いもあったんだなぁと、月子はひとりで納得した。

「さて、あとは、昆布と野菜と・・・アレ、あるかなぁ?」

昆布なんて買うの、はじめてかも。と月子は乾物売り場を眺める。

昆布、どれがいいのかなぁ?

あかりさんは、
「昆布を買っておくと、出汁にも使えるし、日持ちするしとっても便利なの!
日高昆布、真昆布、利尻昆布、羅臼昆布とかいろいろあるけど…

ま、昆布は最初は難しいことはいいのよ。

手に入りやすいものを買って試してみてね。」

と言っていた。

あかりさんは、細かいかと思えば、こういうところは結構ざっくり。

わりと値段が手頃な日高昆布をカゴに入れた。

(れんこんは火が通りやすい、と。玉ねぎは万能。きのこも洗わなくてオーケーと…)

あかりさんの言葉を思い出しながら、買い物かごに野菜を入れて行く。

(あとは、アレアレ・・・あ!あった!!煮干しの粉なんて売ってるんだー。)

と、あかりさんがオススメしてくれた「煮干し粉」を手にとった。

あかりさんは「売っている出汁パックよりね、たとえば昆布と煮干しとか鰹節の旨味が加わるととってもおいしくなるのよ。

あ、でも月ちゃん、めんどくさかったら煮干しの粉も便利よ。入れるだけで美味しいお出汁になるの。お財布にもやさしいしね!」

と言っていたので、めんどくさがりで食費を節約したい月子は、
迷わず煮干しの粉を選んだのだ。

家に着くと、昼ごはんにはまだ早いとは思いつつも、早くお味噌汁を作ってみたくなり、キッチンに立った。

(まずは、水を鍋に入れて、昆布をぱきっと割って入れる・・・と)

れんこんと玉ねぎ、しめじ、人参を切った。

(あ、こんなんある・・・)

月子が冷凍庫の奥の方から取り出したのは、いつだかに冷凍した「豚肉」だった。

(うん、これも入れちゃえ!)

材料を切り終わったところで、鍋に野菜を入れていき、火をつけた。

(根菜は水から茹でるから、今入れる、きのこと豚肉は後から)

メモ帳を見ながら、あかりさんの言葉を思い出しつつつくると、なんだか料理上手になったような気分になった。

具材に火が通ったら、煮干し粉を入れて火を止めて、味噌を溶いたら完成だ。

「ちょっとだけ味見。」

月子は、おたまにひとくち分のお味噌汁をよそうと、ふーっとして、そのまま味見をした。

「・・・わ!おいしい!わたし天才!」

一人暮らしを始めた時に買ったお椀にお味噌汁をよそう。

インスタント以外のお味噌汁がこのお椀に入るのは久しぶりだ。

お椀もよろこぶな。

あ、残ってるネギも入れよーっと。

そして、実家を出るときに持ってきたお盆にお椀を乗せ、珍しくお箸と箸置きを珍しくセットした。わーわたし、ちゃんとしてる!

「いただきます」と小さくつぶやき、胸の前で手を合わせると、
お椀を鼻先に持っていって、湯気を吸い込むように大きく息を吸った。

すると、ふんわりと味噌と出汁の良い香りがする。

温度を確認しながら、そーっとひとくちすすると、じんわりと口の中にお味噌汁が広がり、
まるで口を通じて全身にお味噌汁が染み入るようだった。

わぁ、ちょっと鳥肌。

うん、これだ。あかりさんのお味噌汁の感じに似ている。

なんだか、すごーく寒い日にお風呂に浸かったときみたいなホッとする感じ。

あぁ、だから極楽?
いや、ラクにつくれるから?

れんこんはしゃきしゃき、玉ねぎは甘い。きのこも味が沁みてる。
あの豚肉が、いい味を出してる!
にんじんは・・・うん、なんかかたい。まだまだ修行が必要だな。

あーでも、本当においしかった!・・・わたし、料理できるじゃん!!

お味噌汁一杯で、月子はなんだかすごく充実した一日を過ごした気分になった。

まだ朝だけどね。